続・青春VAN日記44
ケント社の巻 その11(1982年)
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<青山トラ次郎・営業旅情⑩> |
佐世保の街は実に賑やかで、活気に溢れていた。
かねやす様は、島瀬町のアーケード街にあったが、ここの四ケ町の商店街は、平日だというのに、たくさんの人出で賑わっている。
主婦や学生、制服の自衛隊員や米軍兵の姿もある。
横文字の看板も目に付くがコザ市や福生・横須賀ほどではない。
何よりも驚いたのは、実にその人出の多さだった。ここは、近頃日本各地で流行り始めた“郊外型ショッピングセンター”などではない。純然たる旧型の従来タイプのアーケード商店街である。
全国の商店街がさびれる中で、これほど活気がある商店街は珍しかった。
私は見映えばかり良い近代的ショッピングセンターよりも、住民達の心のふれあいがある商店街が好きだった。
ところで私は、ショップを拝見させて頂く時には、売場を見て経営者を想像し、販売・接客の姿を見て店格を評価する。店は人を表わすものだからである。
MEN'S SHOPとは文字どおり、人間付き合いを売る場所でもある。
不肖の私も10年の経験で、ショップを見る眼が多少は出来てきた。
ショップは人である。
私は企業組織を相手に数字管理の商売するのではなく、心ある人間との触れ合いの有る仕事がしたかった。
かねやす店のトラッドコーナーは、きれいに整理・整頓されていた。
ディスプレイはアンティーク小物を使用し、配置にはテーマがあった。
ディスプレイより内側が販売員の“結界”・“ステージ”である。
レイアウトはアイテムごとの関連販売がしやすい配置になっていた。
重衣料の陳列は、色番順に濃淡が並び、袖口は一直線に揃っていた。
商品棚の軽衣料は、たたんだ商品の角がきれいに揃っていた。
什器類はきれいに手入れされ、影となる場所にもホコリは無かった。
そしてなによりも販売員達の顔には笑顔があった。
私は、失礼ながら接客中の初対面の藤山店長の着こなしを拝見する。
上着は肩幅にナチュラルにフィットし、着丈・袖丈も調度良い。胸のⅤゾーンは、上着の衿幅・シャツ衿の長さ・ネクタイ巾と結び方、3点バランスがきちんと取れている。B・Dのロール具合も美しい。
無地には柄、のコーディネイトで実にオーソドックス派である。プレスの効いたスラックスの裾口は、およそ22cm巾で4cmダブル。その長さは短かからず長からず。裾口がちょうど靴の甲に軽く触れ、前部折り目に軽くワン・クッションが入る最良状態。
・・・これらは、色・柄・素材コーディネイト前の基本である。
“街アイ”のくろすさんも推薦する“身だしなみ派トラッド”の着こなしだった。
売場は販売員が着飾って見せびらかす場所ではない。
主人公はお客様なのである。
(イベントやキャンペーン時には広告塔“お洒落派トラッド”だ。)
重ねて失礼ながら、この方は“デキル!”当方からお取引をお願いしたくなる店長であった。
そんなこんなで、商談はいとも簡単に済んでしまったが、トラッド話・趣味よもやま話になると、がぜん話は盛り上がった。
さすがは佐世保の地!藤山さんは米国ブラック・ミュージック(ソウル)の愛好家だった。本場米兵ゆずりのその知識には驚かされた。
デルタボーイズ、ミルスブラザース、アンドリューシスターズに始まり、マンハッタンズ、ドリフタ―ズ、テンプテーションズ、フォートップス、コモドアーズ、シュープリ―ムス、スモ―キーロビンソン、ティナターナー、オーティスレディング、ジェームスブラウン・・・OH、
でるわ出るわ!モータウンサウンド・オールスター総出演であった。私も、ハーレムのアポロ劇場でのエリントン・ベイシー話や、鳥肌の立つ“サラボーンのボディ&ソウル”歌話などで応戦したが、とても太刀打出来なかった。
・・・世に隠れたる好き者あり!・・・趣味人万歳!
閑話休題
<石津会長の鼻>
私も、多少はショップ研究・評価も出来る様になったつもりであったが、私達の校長先生の観察眼・情報分析力は、とてつもないものであった。
昨年の栃木講演以後、何度か石津会長との出張講演を同行させて頂いたが、その度に会長の神業を目の当たりにした。
・・・会長は見知らぬ土地であっても、方向を迷わない。
駅前で“山と川と海”の配置を確認する・・・。
太陽の位置、風の流れで方角を読んでいる・・・。
川の流れで土地の高低を判断している・・・。
そして人の流れと、街の“ニオイ”を嗅いで方向を知る・・・。
(いったい中国でのご生活体験か、明大グライダー部でのご経験か?)
目的地の駅を降りると、秘書の高田さんに確認することもなく、
「横田君、きょうは何を食べようか?」と歩き出される。
「市街の中心は向こうだな! 商店街はあの方向にあるだろう!」
(いったい風水も勉強されたのだろうか?)
「すると、この地の美味い物はあのあたりで食べられるはずだ!」
「海があれば潮の流れをみて魚貝類、平野なら田畑を見て野菜・肉・鰻、山なら山菜・蕎麦・獣肉・・・、」「今の季節だったらあれが美味いだろう・・・・・。」
・・・と、街の構成・飲食街の場所・特産物・旬の食材までを土地を見て瞬時に読みきってしまうのである。
飲食店は、その所在位置・店構えを見ただけで味の良い店を判断してしまう。
「僕は、知らない街でもうまい店のニオイをかぎわける鼻を持っている。こと食べ物に関しては、僕は実に執念深いタチなんだよ。」
これらは、海外の都市を訪れた時でも同じ事だった。
ドイツのケルン市を、会長と私と井上純二氏(元VT販促・㈱ドゴール)の3人だけで旅行した時も、会長の鼻は実に正確であった。
(ライン川のほとりで極上のソーセージと生ビールにありつけた。)
そして会長の鼻は、けっして外れる事は無かった。
いわんや、百貨店・小売店・メンズショップ・をや!
会長は店を見ただけで、経営者の考え方、従業員数、売上状況まで、瞬時に読んでしまうのである。
社員の外見・衣服・言葉使い・態度を見ただけでも、生まれ・育ち・出身地・教育程度・思想・趣味・好みの女性まで、瞬時に読んでしまうのである。
私などは、目が合った瞬間に、裸にされたも同然だった。
(おそらく会長は、こうやって戦後の混乱期や神武景気・オイルショックと、社会の風のニオイを感じ取ってⅤ社を成長させてきたのだろう。
・・・惜しむらくはⅤ社の70年代後半。巨大商社の介入によって、会長の大きな鼻にマスクが掛けられてしまった事である。
・・・Ⅴ社商品からは次第にニオイが消えてしまった・・・。)
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人は誰しもその眼底に投影される映像情報は同じ物のはずなのに、達人とは“確認・分析・理解・判断・想像”の感覚能力の次元が違うのだ。
達人とは、目だけで物を見ているのではなかった。耳情報だけでもなかった。自分の鼻でニオイも感じ取っているのだ。
さらに、五感+第六感+経験+知識すべてを使って、物事を見ているのだ。
これは古来、武道で言われるところの“心眼”に通じるのであろうか?
眼で見るのではない、耳で聞くのではない、全身全霊で感じとるのだ。あたかも神通力のような、会長の読みの技であった。
1983年、アイルランド “ダブリン”にて
手にするグラスは・・・・・・ミルク?、
それとも・・・フローズン・バナナ・ダイキリ・・・?・・・まさか!!
はたして・・・・・・・・・・ |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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