青春VAN日記35
<横田店長の販売社員トラッド教育講座>
トラディショナルとは
traditional 形容詞(伝統的な、基本的な、正統的な)。
名詞はtradition
ファッションの歴史とは、いつの世も、正統(オーソドックス)に対する異端(アンチ)とのせめぎあいの歴史である。伝説のスタイリストであるブランメルやバイロン。エドワード公、ウインザー公、そして石津謙介氏。 皆、当初はファッション界の異端児とされ、反逆者扱いをされたのである。しかし彼らはそれぞれの時代の“正統・オーソドックス”を知り尽くしたうえで、あらためて自分を主張した。
そしてついには、その主張を正統なものとして認めさせた。
社会全体がそれに屈服したのである。
正統とは
@社会が認めた正しい系統。
Aある時代・社会で最も適当であると認められ、標準とされるもの。
よって、正統は、権威あるものとして扱われ、時代のお手本となるのである。
この“オーソドックス”という概念は、さらに時間の経過によって、伝説を生み、洗練され、様式化されてゆき、「トラディション」ついには「クラシック」へとのぼりつめて行く。つまり、その概念の形成は“時間の流れという要素に大きくにゆだねられている”のである。
歴史的な時間の経過によって、選別され、洗練され、今の世に脈々と伝わる正統な衣服。
それが「トラディショナル・クロージング」です。
本物とは
たとえばダッフルコート。
厳寒の北海の荒海で漁を行う男達にとっては、毎日が死と隣り合わせの仕事であった。
特に海が荒れた日などは、襲い掛かる寒気、降り注ぐ波しぶき。
一歩足を踏み外せば氷の海が待ち構えている世界だった。毎年必ず死者が出た。漁師達は必死に考えた。より温かく、海水に濡れても水がしみ込まない服を。彼らは脱脂加工を施す前の極厚羊毛生地“ダッファー”を使用した。
肩を二重にし、フードを付けた。ボタンなど無いから、釣りにつかう“浮き(トッグル)”とロープを使って前を閉じるようにした。
そしてあの一枚仕立てのディティールが出来あがっていった。
後日、このコートの機能の素晴らしさに気付いた大英帝国海軍は、制服として正式採用した。・・・命を守るダッフルコート。
これを本物(authentic)と言う。
時は変わって1960年代の日本。VANのアイビー、ダッフルコートの流行をまねた他メーカーは、こぞってダッフルコートを売り出した。・・・手に入れやすい薄地の生地に裏地をつけてボタン止め。
・・・はたしてこんなコートを着せていったいどこの海で漁をしろというのか。・・・。
フィッシャーマンセーター(アランセーター)も同様である。
アラン地方の厳しい環境で労働する漁師の妻たちは、夫を気遣い、凍えずに漁が出来るように、水をはじく染色前の紡毛の太糸で、厚地のセーターを編んだ。妻たちは自分の夫のために各家庭独自の柄を編みこんだ。アランの編み柄(アラン・パターン)は、夫婦の愛のあかしでもあった。
しかしある時、漁に出掛けた男たちを、激しい嵐が襲った。
男たちは遭難し、死んだ。
翌日、浜に打ち上げられた死体は、荒波にもまれ判別が不可能であった。・・・その時、
妻たちは、死体が身に付けたセーターの編み柄によって、自分の愛する夫であることを確認したという。
時が変わって、1960年代の日本。VANのフィッシャーマンセーターのヒットをまねた各メーカーは、コストを下げるため安い毛糸を使って、
・・・ああ、ヤダヤダ!利益のために機能を捨てている。
本物の衣服とは、高名なデザイナーが室内の机の上で考えた服のことではない。
人々の生活と歴史の中から、「必要性があるからうまれ、実用性に富んでいるからこそ受け継がれてきたものである。」
これをtraditional clothingと言う。
すべての衣服には名前がある。
形、素材、柄、色にもすべて名前がある、その名には、すべて由来、
ヒストリイ、がある。そして機能がある。
この原点を忘れた時、その商品は偽物(imitation)と呼ばれるのである。
「男の服には、BECAUSEがある。」・・・・・石津謙介
つづく
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