青春VAN日記41
新宿三越の巻 その3 (1975年秋)
売り場後方、裏階段ではメーカー販売員同士の殴り合いの喧嘩が行われていた。
どうやら珍しい事では無いらしい。原因はお客様の取り合いらしい。さすがに新宿である。
各メーカーの販売社員達は“体力が物を言う”すごいメンバーぞろいだった。
とにかく商品の売場レイアウト自体が、各メーカー商品が混ざり合っていて、混然とアイテム別に並べてあるプロパー展開である。したがって、その陳列数量枠取りから場所取りからして、販売する以前からが戦いなのである。朝、出勤すると、自社商品が一番後ろの什器に移動していたりするのは、日常茶飯事のことである。
基本的には、三越サイドが売上実績に基づいて各社に割り振りするのであるが、それはそれで各社ともいろいろな裏テクニックを用いて、自社の有利な売場を作ろうとするから、争いが永遠に絶えないのである。
そして必然的に販売方法は徹底した尾行販売になる。お客様に先に付いた者が権利を持つ。
販売員は入り口のエレベーターやエスカレーター前にたむろして入店客に目星を付ける。もちろん同時にお客様に付くこともある。必然的に奪い合いになる。当然喧嘩になる。
販売員は自社商品を必死に売り込むから、お客様の目的・意向は強引に変えられてしまう。
結果、気の弱いお客様は欲しくも無い商品を買わされてしまう。
(仕入れから販売までをすべて百貨店社員がやっていれば、このような派遣社員の強引な接客問題は無いのである。自店の販売員に実力が無く、販売力まで取引先に負担させるからこうなるのである。とても一流名店舗の販売接客法とは言えたものではないのである。)
TACのリーダーは、体の大きい琉球唐手の使い手のT氏。ヒゲが濃くてとにかくゴツイ。
JazzのMちゃんは、販売歴10年で仕事中以外はいつも酔っ払っている古強者。社員食堂で、いつも味噌汁に山のように唐辛子をかけて食している、おそろしい酔いどれベテラン。
(しかしながらJazz社の営業課長はすでに池西で知り合いの仲なので心配無し。)
JUNのリーダーのF井君は、なんと3年前に青山会館でのV社入社試験で見かけた事のある顔だった。そうかJUNさんに就職していたのか。
売場主任の伊東さんに、“赤シャツ”のようにべったりくっ付いているのは、樫山の販売員達。・・・うーん見ていて飽きない職場だ。・・・販売員のワンダーランドだ!
その店員達は、右を見ても左を見ても、ロング・ヘアーにバギーパンツ姿のオンパレード。
『ヨーロピアン・クラシカル・エレガンス』ってか!『セレレゴンス』ってか!顔が違うだろう。
アランドロンに似てもにつかぬ足の短さ。パンツの裾のフレヤ−が始まるところよりも上の位置で裾上げしているのでは、まるでステテコではないか。生地の無駄ではないか。
あげくの果てはイイ男が、高さ8cmのハイヒール靴を履いて、ピコピコ歩いて。君達、恥を知りなさい!その足元では「ケンとメリーのスカイライン」にも乗れないではないか!
おまけに下着も着ないで、体にピッタリした透けスケシャツ。汚い乳首を人に見せて、いったいなんなのだ。デパートの販売員が遊び人や芸能人の格好をしてどうするのだ。
男子たるもの“恥を知れ”。職場は従業員が着飾って自己満足して喜ぶ場所ではない。ここはお客様を喜ばせる場所なのだ。君達はTPOを間違えている。
「男の服にはウソがあってはならない」のだ。あまつさえ薄化粧までしたその姿は、自分を偽る“詐欺”ではないか!
君達!その姿を、20年後の自分の子供達に見せられるか!
ちまたでは、第二次アイビーブームの波も終わって久しい。いよいよ大物“アルマーニ”も登場して来た。このままでは日本の街は、学芸会の舞台裏か仮装行列だらけになってしまう。なんとか“マットウ”な道に戻さなくては。
昨年、アメリカで製作された“不朽の傑作青春映画”「アメリカン・グラフィティ」が、いよいよ日本でも封切りされ、世界中の若者に騒然と話題を巻き起こしている。
今年の10月17日には、あの“ジョン・デンバー”も日本武道館にやって来る。
このムーブメントをつかって、必ず、日本の若者達を“明るく正しい姿”に戻すぞ!
つづく
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