青春VAN日記46
新宿三越の巻 その8(1975年10月)
三越、宮崎課長の紳士服売場・全体朝礼によって繁忙期戦線は火蓋を切った。
「紳士服本部発表、本8日未明、我が店は新宿方面において各百貨店と戦闘状態に入れり。今期売上は、対前年120%を目標とする。今期のテーマは“トラディショナル”である。
新宿における、当店の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ!」
「なお、この期間、売場全員の個人売上を記録し、個人売上コンテストを行う。以上。」
・・・さあ、いよいよ決戦が始まった。
各社はそれぞれ販売応援体制をととのえ、大量の商品を納入し、臨戦状態に突入した。売場には“人とモノ”があふれ、販売員達の表情に緊張感が一段と増してくる。
私達VAN部隊は販売システム分業作戦を採った。
通常の販売作業は、アプローチ、お見立て、試着、採寸、伝票記入、入金、お見送り、等の一連の作業を一人で行うが、私達は混雑時にはこの作業を“お買上げ決定”までの作業と、決定後の作業に分けた。 動きの良いメンバー達には遊撃部隊としてフロア−を縦横無尽に動き回って販売してもらい、私ともう一名は司令部としてカウンターで待ち構え、試着・採寸・伝票作成・入金作業を専門に行った。いわゆる米国式単純協業的分業流れ作業・(フォードシステム)の流用である。
さあ、今日もお客様が多数入店されたぞ。・・・我が部隊は全員目が光っている。よし!
「全員、撃ち方用意、・・・突撃い!」
他社販売員は人数こそ多いが、アプローチの順番待ちやフィッティング待ち、レジ入金で待たされて並んでいたり、伝票書きの場所をさがしていたり、動作に無駄が目立った。
我が方は常にカウンターとフィッティング・ルーム前に陣取り、場所を確保している。
なおかつ私の試着・採寸・記入作業は正確かつ迅速である。接客回転率に大差がでた。
商品補給は営業部隊による“東京エクスプレス”作戦である。VAN営業の花田さん、Kent営業の牛田さん達も、連日細かい納品をしてくれた。 私自身も、休みの日には日本橋の住友倉庫に出向き、調品・出庫作業にはげんだ。
売上に応じての連日フォロー納品もうまくいった。
私からのフォロー納品商談に対し、VAN売上好調を見てとった伊東主任は、売場納品金額ワクをこえても、伝票にハンコを押してくれた。これも好調な売上のおかげであった。
やがて我が部隊員の個人売上は軒並み群を抜いていった。
しかしこのままでは、私自身の個人売上がつくれない。店長として示しがつかない。私は店内状況を判断しては、タイミングを見てカウンターを離れ、単価の高いスーツを専門に売りまくった。スーツを販売するには、とりわけ知識と技術がいる。なおかつ接客に時間がかかる。おまけにKentなど、ブランドの指名買いが多く、自然、他社の若い販売員や応援販売員は手軽な中・軽衣料の販売に集中し、スーツは敬遠しがちになる。
そこが私のねらい目であった。単価の高いスーツの売上は実に効果的であった。
9月時には形を成していなかったKentの商品群は、日が経つにつれ、フロア内にコーナーとしての立場を確立していくのであった。
・・・かくして我がVAN販売部隊は12月を待たずして、岡田部長の期待に応え、他社販売部隊に比し圧倒的に優勢な戦線を構築していったのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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