青春VAN日記48
新宿三越の巻 その10(1975年12月)
閑話休題
(・・・前回47号の中で、旧制高校の話が出たので、・・・
今回は、旧制高校精神〜弊衣破帽〜バンカラ=VANカラー〜アイビー・スタイルの共通性について書こうと思っていたら、さすが、我・管理人先生!すっかり先を読まれてしまったようです。)
<バンカラについて>
昭和40年代頃には、日本武道館において、「日本寮歌祭」が盛大に行われ、テレビのニュース・雑誌等でも、その匂いを嗅ぐことが出来ました。「嗚呼(ああ)玉杯に花うけて」(1高)とか、「紅萌ゆる丘の花」(3高)、デカンショの歌、などの寮歌を、ホウバの下駄に羽織・ハカマ姿、すっかり薄くなった頭に白線入りの学帽をかぶった旧制高校OB達が放歌高吟、蛮声を張り上げ壇上を乱舞していたのであります。
私には、単なる年寄りのノスタルジーとは思えませんでした。
学生時代に愛唱した歌というものは、いくら年令を重ねても、忘れない。それを歌っていると、若かった頃の事を思い出し、その頃の熱い気分に戻ってしまう。そんな懐かしさと楽しさが寮歌祭にはありました。
実はこれこそが、「YOUNG−AT−HEART」の精神なのであります。
戦後の学制改革により旧制高校が廃止されて30年。いまだに同窓生が集まって青春に帰るのは何故か?(VAN社員達が30年経っても集まれるのは何故か?)
古きよき時代を旧制高校で送った誇りと感傷なのか?それとも、滅んだ母校と、永遠に帰らぬ青春への追慕なのか?・・・そこでは個性を尊重し、人格を重んじた人間解放の教育が行われていた。青雲の大志を抱いた明治の若者達はその中で人間形成に切磋琢磨した。貴重な時間を共通体験したその思い出は、生涯の宝となったのである。
旧制高校の精神を象徴していたのは、「デカンショ」の歌であった。北杜夫先生によれば、デカンショというのは、デカルト・カント・ショーペンハウエル、西洋近代史の哲人の名を要約したものです。
当時の学生らは寮にこもって、勉強し、議論し、酒をくみかわし、ストームをする。酔いが廻ると皆この歌を高唱した。みんな白線のついた帽子をかぶり、マントをまとい、ホウバをはいていた。
日本式でもなく、洋装でもないチグハグな異形の服装である。
しかもこの服装は、汚れていなければならなかった。
帽子は破れ、マントは垢まみれ、腰に吊るした手拭は醤油で煮しめたように、茶色くなっていなければならなかった。
つまり独特のバンカラ・スタイルである。このスタイルは彼らの誇りであった。弊衣破帽こそ、俗世間の利害からの超越を求めた旧制高校精神のシンボルだったのである。
(衣服は人を表意するものである。人と違う格好をしろ。
石津謙介・・VANカラー)
事実、旧制高校では教育方針として、授業、課外の活動を問わず、社会から隔絶した世界を尊重した。だから授業でも実用的な語学教育をせず、古典を読んで学問と思想を深めることを重視した。学生達は訳もわからずニーチェやドストエフスキーを乱読し、人生について苦悩した。
また、課外活動としては学生の自治を尊重し、全寮制度を実施していた。
当時の教育制度は6・5・3・3制であり、中・高・大学を志望するものは「いい家庭」の一部の選ばれた子弟であった。進学できるものは今でいうエリートであった。
当然、このエリート意識は端的に服装に表れた。よって、旧制高校生達は、たとえ弊衣破帽であれ、その制服とスタイルを誇りとした。
なぜなら制服が特権の表示に役立ったからである。だから満足してバンカラ(エクストリーム質実剛健)な服装をしていたのである。
周囲の人々も旧制高校には特別待遇を与えていた。白線帽にマントの学生は甘やかされ大抵のことは大目に見られた。酔っ払って商店の看板をはがしたり、塀を壊したりしても笑って見逃されたり、下宿代を溜めても、めったに追い立てを食わなかった。(北杜夫談)
逆に下宿の母親などは娘の未来の花婿候補者とみて、大事に扱った。
「学士様なら娘をやろか」という合言葉があったぐらい、旧制高校生は立身出世のカリスマだったのである。
賢明な皆さんは既にお気付きのことと思います。
欧米においても、いくつになっても出身校の頭文字の入った服を着ていたり、スクール・カラーや紋章入りのネクタイをしていたり、兵役で所属していた連隊の縞柄のネクタイなど“青春の宝物”を後生大事に身に付けている人がたくさんいることを。
そうです。日本のバンカラは、米国のアイビー・スタイルと同じ事だったのです。
・・・デカンショ デカンショ で半年暮らす ヨイヨイあとの半年 寝て暮らす
人間は制服を着せられるのを嫌がる。そのくせみんな同じブレザーを着て集まると、とたんに同じ釜の飯を食った同志みたいになって、言いたい事を喋りあう。いい歳をして子供だね。
いつまでもYOUNG−AT−HEART 石津謙介
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
|