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青春VAN日記52

新宿三越の巻 その151975年末)

<不易流行U>
1230日、売場での“一本ジメ”にて本年の仕事も無事終了した。

「今年も、大好きなVANのために100%頑張ったぞ!さあ明日から休みだ!」

心地良い満足感と疲労感を感じつつ、VANメンバーを引き連れて新宿大ガード裏、通称“ションベン横丁”へ飲みに行った。

 洒落たバーやパブも良いが、男同士の“うちあげ”はこういう場所にかぎる。

とにかく早い安い旨い。チューハイにホッピー、煮込みに焼き鳥、鯨のベーコン(鯨肉が1番安かった。食堂鶴亀の鯨カツうまかったナア。)・・・「今日は、俺のおごりだ!」

ひっきりなしに聞こえる電車の走過音、ごった返す男達の喧騒、時折聞こえる藤圭子の“夢は夜開く”。仕事帰りのバンドマン。流しのギターに合わせて調子はずれの蛮声を張り上げるサラリーマン。すべてが味わい深い世界、安い酒でも最高のつまみであった。

新宿三越で半年間。月日の経つのは早いもので、赴任当時はメンバーから裏に呼び出されたりして、一時はどうなることかと思ったが、今や最高のスタッフ達であった。

「横田さん、・・あんたが最初に三越にきた時は、あまりにトラッドなもんで、スカシタ奴だなあ、1型の頑固者だろう、と思って反感を持ってしまったけど、半年間いっしょに仕事してみて、こんなに仕事が楽しかったことは今まで無かったよ・・・。」

「あなたと仕事をしていると、売場が面白くて、朝起きると、売場に行きたくなっちゃうんですよ。来年もよろしくお願いします。」・・・私には最高の褒め言葉であった。

みんな「良いお年を!」・・・。ほろ酔い加減で帰途に着いた。  

師走を迎えて年越しの買物で混雑する街の雑踏を見ていると、必ず思い出す一節がある。

・・・「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也・・・。」

高校時代に習った“奥の細道”の序文である。 なぜか年末になると思い出す。

「月日というものは、永遠の旅を続ける旅人のようなものであり、来ては去り、去っては来る年もまた、同じような旅人である・・・。」 
うーん、時の流れが身にしみるなあ。


学生時代は、松尾芭蕉と聞いても、江戸時代の風流な俳人、としか思わなかった。それが、社会を経験して作品を思い浮かべてみると、なぜか味わい、実感がまるで違う。

・・・ああ私も少しずつ大人の世界に踏み込んできたなあ、と感じた。

それにしても、芭蕉はさすが「風雅の達人」である。

はるか江戸の昔に、現代社会の風俗・現象でもある“流行”について、すでに達観していたのである!

元禄二年、京都時代の芭蕉は、弟子である向井去来に、俳諧における「不易流行」の理念を説いていた。
(不易=変わらない事。 流行=移り変わること。)



去来「・・俳諧には、永遠に芸術的価値の変わらない句と、その時どきによって変化する新しみのある句がありますが、はたしてどちらがよろしいのでしょう・・・?」

芭蕉「不易を知らざれば、その基立ちがたく、流行を知らざれば、風新たならず。

不易は古へによろしく、後に叶う句なるゆえ、千歳不易という。

流行は一時一時の変にして、昨日の風、今日よろしからず。
今日の風、明日に用いがたきゆえ、一時流行とはいふ。はやることをする也。

その二つの根本は一つ也。“風雅の誠”也・・・。」


ファッション関係者の皆さん。
上の文章の、俳諧を“ファッション”に、句を“服”に、
置き換えてみてください。

不易をクラシックとするならば、流行はトレンド。

流行、流行、といつも新しいトレンドを追い求めている人!

頑固なまでにクラシックなスタイルを変えない人!

いつの時代も存在し、対立する二つの価値観。

おもえばファッションの世界も、最新流行型と保守伝統型のせめぎあいの歴史である。

そして、それらの混沌の中から、時間の経過のみが成せる作用によって、“スタンダード”“オーソドックス”、“トラディショナル”などの概念が生まれてきた。

・・・「暮れ暮れて 餅を木魂の わび寝かな 」(芭蕉)・ ・ ・

果たしてファッションの世界での、真理“風雅の誠”とはいったい何であろうか?

・・・こうして1975年は暮れていった。      

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく



1980年Men's Clubより









『 年暮ぬ笠きて草鞋はきながら 』 芭蕉






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