青春VAN日記56
新宿三越の巻 その19(1976年1月末)
<私が返品シーズンに思うこと>
決算が近づくと、売場では棚卸(本棚)に備えて大掛かりな返品作業が行われる。
もともと決算は、1年間の商売のけじめであり、新たな期に向けての出発点となる最重要業務である。そのためには売場を整理整頓して、帳簿上在庫と実在庫を照らし合わせなければならない。つまり棚卸である。
(期首在庫+総納品金額)−(総売上+総返品金額)=期末在庫である
伝票整理・集計作業だけでも大変である。(パソコンなど無い時代である)
そして百貨店に対し正確な請求を行わなければならない。
百貨店は、納品・売上に応じての請求金額にたいして、出来るだけ支払い金額を減らそうとする。遅らせようとする。そのために様々な手段を講じるわけであるが、最大のものが返品である。商品を返してしまえばよいのである。
特に、三越においては、委託取引形態からいって、返品は三越のなすがままであった。
メーカーに大量の商品を発注しておきながら、都合が悪くなると大量返品する。売れ行きの良くない他売場の製品を、取引先に強制買物させたりもする。
こんなことをして、百貨店には、商品発注・売上に対する責任は無いのか!
私は、どうしても納得出来なかった。
この頃の日経流通新聞にデータがある。
「あるアパレル問屋が百貨店数社の衣料品の返品状況を調べたところ、各メーカー返品率は、A社が29.7%、最も低い]社の場合でも20.8%。
仕入れた子供服の72%を返品している百貨店もあった。」
ここまで返品率が高いと、販売のプロであるべき百貨店の仕入れ担当者は、何を考えて商談しているのだろうか、と疑いたくなる。(こんなバイヤーなら俺でも出来る)
百貨店はメーカーや問屋から商品を委託され、販売しているのだから、返品しても腹は痛まない。返品商品は、他店で売られるか、バーゲンで処分売りされるのだろうが、メーカーがそれまでに要した人件費・物流費などの社会的なロスは大きい。それにリスクを負わない百貨店自体にとっても、売れる商品を店頭に並べていれば当然得られた利益を、みすみす失っている事になる。
個人消費の追い風で、百貨店各社は軒並み“わが世の春”を謳歌している。
しかし商売の実体は、非近代的な要素を多分に残している。
マーチャンダイジングが確立されているとはいえない。
これが、わが国の商慣行だ、と言ってしまえばそれまでだが、
米国においては、「リスクなきところに利益なし」を原則に、商品完全買取制で、責任ある厳しい商売をしていると言う。
昭和28年頃から、わが国で広がっていった返品自由の「委託販売制度」。これでは、世界に通用するわけが無い。今後の日米構造協議では、今後、こうした流通制度のひとつひとつに改善要求が出てくるに違いない。
別にアメリカの肩を持つ訳ではないが、正価で買物をした消費者が損をする制度は、やはり、おかしい。
こんな不公平なことをやっていたら、日本の百貨店は必ず、落ち込む日が来るぞ!
閑話休題
私は旧VANヂャケット〜新Kent社と、長い事多くの取引先との営業を経験しましたが、日本中のお店の中で、ただ一店舗、驚くべき取引先がありました。
このお店は、展示会や受注会商談で発注した商品を、ただの一度も返品した事が無い!
当方からの請求に対して、一度たりとも、支払いが不足したり遅れたりした事が無い!それどころか、納品するやいなや、請求書が店に届く以前に全額支払を済まされてしまう!
・・・いや、時には商品を発送する前に、支払いが済んでいる。
その商いの潔さは、まさに「敷島の朝日に映える山桜花」。
ああ!・・・私達営業社員は、このお店のためならば、なんでもするぞ!・・・
客注があったときは、たとえ唐天竺まででも商品を探し出してお届けするぞ!・・・と感動しました。その信用は海よりも深かったのです。
このお店は現存します。
日本中のあらゆる有名店よりも素晴らしいトラッド・ショップ。
明るく元気で正しい心。人間の温もりの有る店。
“YOUNG−AT−HEART”の真心を伝える店。
それは福岡県柳川市にある「 K−PORT 」さん。
・・・ありがとうございました!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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