青春VAN日記80
本社営業の巻 その23(1976年9月)
<さあ、いよいよ秋冬商戦だ!>
幸いにも、我Kent部は、今までの堅実な業務により、他チョップに比べて優良な営業成績である。
山のような返品は無い、赤字も無い。しかし“Kent”とて、全社的な状況を鑑みて、他チョップの分まで、より頑張らねばならない。
私の営業目標は、“返品の減少”である。
“Kent”とはいえ、返品商品や繰越在庫商品が無いわけではない。
ここ数年、Kent企画は2型・3型のニュー・トラッド路線を打ち出している。そして今期は、全国トラッド店の発注傾向はトレンドのブリティッシュ型が中心である。いわゆるKentトラディショナル3型モデルの流行である。
しかしながらKentの繰越在庫商品の内容は、幸か不幸かトラッド定番商品である。ほとんどが流行の無い、私の大好きな1型商品である。
これらは昨年度の商品とて、素材・縫製等は今期製作商品と全く同じである。これを、そのままにしておく手は無い。
そして私の担当、丸井様だけが、発注商品は1型基本形トラッド商品群となった。
(私のトラッド話を聞いてくれた鈴木本部長のお力である。)
その結果、Kentの今期生産量は例年に比べて1型定番商品の比率を減らした。オーセンティック・トラッドとニュー・トラッドの商品比率は逆転した。
中心は3型ブリティッシュ・モデルとなり、1型は注目されなくなってしまった。
・・・しかしながらKent1型基本商品は必ず売れるのである。
紳士服を英語学習に例えるならば、“1型モデル”は英文法“基本5文型”
のような大基本であり、軍服から発展した紳士服の歴史をつぶさに残すそのスタイルは、トラッド紳士服の原点“サック・スーツ”として、複雑な紳士服の細部ディティールの解説・説明の際にも、心あるトラッド紳士服店には絶対必要なのである。
その集大成である、我“Kent1型3ボタンモデル”。
あらゆる紳士アパレル(外衣)のモード・デザインはここから始まる。
この基本型がなければ、トラッド紳士服は始まらない。
Kent1型を売り続けていることは、正統メンズ・ショップの誇りであり、紳士服を理解している正統トラッド・ショップの証なのである。
これは、私自身のトラッド人生で掴んだ絶対の信念である。
日本中のトラッド愛好者たるものは、新しいトレンド商品に好意的な人達ばかりではないのだ。むしろ逆なのだ。
今期、1型商品が例年どおりに売れれば、(いや必ず売れる)マーケットの定番商品量は必ず不足することになる。
だから私は、初回投入から倉庫繰越在庫商品を多用し、定番商品量を確保する。その時、他店に行っても1型商品は不足しているのだ。
すると、店頭は、繰越商品であろうがなかろうが必ず定番商品を要望する。この時、倉庫の繰越在庫品は通常上代で、いっきに消滅するのだ!
そして、その結果、1型中心品揃えの丸井様のトラッド売上は他店より増加し、その好売上の土台となった1型トラッドモデルは市場で改めて見直され、“Kent3ボタンモデル”は紳士トラッド業界の伝説の商品となり、Kentの繰越在庫品は一気に消化され、我社の経営好転に寄与する!
そしてKentは日本初の“100年ブランド”の歴史を創ってゆく。
・・・これが春から続けてきた、私の“丸井商品本部トラッドささやき作戦”のねらいなのである。
( ほとんど柴又のトラさんの“劇中一人妄想芝居”の世界なのだが・・・)
過度な大量消耗・消費の時代の中でありながら、お父さんの古着を息子が愛用し、孫がまたそれを着ていく・・・。
私は本気で、そんな人間の温もりのあるトラディショナルな社会を夢見て、Kent100年ブランド計画を考えていたのでした。
( 人の生活三要素の“衣食住”筆頭の衣服を大切に着続ける考え方は、 限られた自然資源を有効利用する事でもあります。トラッド思想は
エコロジイの考え方にも通じているのです。 )
・・・今期すでにその第1段階の下準備は出来た。後は仕上げをごろうじろ!
( 人と違う事をやれ!・・・石津謙介 )
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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