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青春VAN日記94

本社営業の巻 その371977年夏)

<北海道サイクリング旅行D>

苦しい!限りなく苦しい!

全身から吹き出した汗が、白い結晶となって、白粉を塗ったように白くなる。

喉はからからで、ゼイゼイと呼吸する息はドライヤーの風の様に熱い。

必死で廻すペダルは、40T×24Tのローギヤにも拘わらず、鉛のように重い。

自然の前での人間の力とは、なんと微々たるものか。

朝から3時間、走り続けている道は、相変わらずの登り道である。地上には、上り坂と同じ数だけ下り坂があるはずなのに、いったい下りはどこへ行ってしまったのだ。ここでは大自然の法則が狂っているのか?

我が膝はすでにカクカクと笑い出し、ふんばりが効かなくなっている。

“休みたい”

だが、わが理性は主張する。

考えよ!人生は苦しい上り坂を登っている時が花なのだ。

二度とない人生の花を、青春を、もっと味わい尽くしてみろ!

すると、朦朧とする脳裏には、どこからか別の不思議な囁き声が聞えてくる。


止せ、止せ、ミジンコ生活の都会が何だ

ピアノの鍵盤に腰掛けたような騒音と

固まりついたパレット面の様な混濁と

その中で泥水を飲みながら

朝と晩に追われて

高ぶった神経に顫へながらも

レッテルを貼った武具に身をかためて

道を行くその態は何だ



平原に来い、牛がいる、馬がいる

貴様一人や二人の生活には有り余る命の糧が地面から湧いて出る

透きとほった空気の味を食べてみろ

そして静かに人間の生活というものを考えろ

すべてを棄てて兎に角 石狩の平原に来い



そんな隠退主義に耳をかすな

牛がいて馬がいたら、どうするのだ

用心しろ

絵に書いた牛や馬は綺麗だが

生きた牛や馬は人間よりも不潔だぞ

命の糧は地面からばかり出るのじゃない

都会の路傍に堆く積んであるのを見ろ

そして人間の生活といふものを考える前に

まず ぢっと翫味しようと試みろ



自然に向へ

人間を思うよりも生きたものを先に思へ

自己の大国に主たれ

悪に背け



汝を生んだのは都会だ

都会が離れられると思ふか

人間は人間の為したことを尊重しろ

自然よりも人口に意味あることを知れ

悪に面せよ

                     
(高村光太郎 声より)


“ああ、私の人生はどっちだ”・・・。

そして青山3丁目の若者達は、蝦夷富士の美しさも目に入らないほどに、

メロスのようにボロボロの疲労困憊の姿となった。

「もう、1mも進めネー!限界だ!死ぬ〜!」

・・・その時、私達の前に“女神”が出現した。

場所は京極の峠道だった。










お兄ちゃん達、休んでいきな!人生は長いんだ。
                 ゆっくりいきな!
」 




山の中、峠に一軒の“京極商店”のおばちゃんだった。

いっきに肩の力がぬけた。

そうだ!ゆっくり行けばいいのだ、人生は!

まさしくこの店は“人生の峠の茶屋”だった!

喉をトックン、トックンと流れる冷たい三ツ矢サイダーのうまさと、

親切なおばちゃんのやさしい笑顔は、今でも忘れられない・・・。


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく

           











“VAN SITE”SEISHUN VAN NIKKI 94
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