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青春VAN日記98

本社営業の巻 その41(1978年正月)

しめ飾りの代わりにと、小さな玄関に一体のボディのKentディスプレイを飾った我が千駄ヶ谷アパート。

大晦日の夜とて、となりの明治神宮の賑わいが
嘘のように、ひっそりと静寂につつまれている。

テレビの「行く年来る年」から流れてくる京都知恩院の除夜の鐘が、妙に心に染み入ってくる。


  「 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、

  沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表わす、

  驕れるものも久しからず、ただ春の夜の夢の如し、

  猛き者もついには滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。 」


VANに入社して営業になってからというもの、以前は他人事だった世の中の流れが、自分の身体で感じられるようになった。

政治・経済・ファッション・・・激しい世相の移り変わりが、自分の営業数字に即反応してくる・・・。

所謂、広義の“流行”である。

世の中の流れは、川の流れのように一時もとどまる事が無い。

どれほど素晴らしい文化も国家も為政者も産業も企業も、新星の様に登場し、そして、いずれは滅んでゆく。

始まりのあるものには必ず終わりがある。

変化してしまうことは、大自然の摂理なのである。

しかし、ただ闇雲な無秩序な変化をしているのではなかった。

人間の歴史は、常に人々が望む、より良き方向へと変化してきたはずだ。

それは、人類は文字を発明し、過去を記録・伝承し、それを学んだからである。

過去を学ぶ「温故知新」の知恵が、人間を進歩させたのである。



俳聖、松尾芭蕉も述べている。

俳諧の真理、“風雅の真”に至るには、「不易を知らざれば、その基は立ちがたく、流行を知らざれば、風 新たならず。」

                       ・・・と。

人間の進歩のためには、過去の歴史・伝統(TRADITION)を学ぶことは、必要不可欠なのだ。過去を学ばぬ者に未来は無い。


・・・あらゆる文化や衣服・ファッションの世界においても。この歴史や伝統を大切にする考え方、「TORADITIONAL」は正統なのである。

戦後の混沌とした日本に「TRADITION」の思想を広めたヴァンヂャケット。

世界の一流文化国に成るほど、歴史や古い街並みや自然を大切にする。

我が国はそうではない。いつも新しい物好きな、開発途上国文化だ。

中には歴史や伝統を否定する人さえ存在する。

「トラディショナル」をいにしえの“有職故実”にしてはならない。
この会社や思想を、絶対に消滅させてはならない!
新年の私のささやかな決意でありました。

 

さて、トラッド思想の大もとであるアングロサクソン・ピューリタン(WASP)。私達のあこがれの国アメリカが、このところすっかり変ってしまった。

クラーク・ケントからJFケネディまでの“明るく正しい正義のアメリカ”は泥沼のベトナム戦争によって、そのイメージを一掃してしまった。

ほんの10年前まで、アメリカは自信に満ちていた。

社会は繁栄している、アメリカの理想は正しい。それを学びさえすれば、全世界は自分達と同じような繁栄と平和を楽しめるのだ、という理想に燃えていたのがアメリカだった。

戦後の私達日本人は、アングロサクソンの
良心、自由、正義の理念のカッコ良さにあこがれて、生活全てのまねをしていたものである。 


それがベトナム戦争によって幻滅してしまった。

アメリカ社会に噴き出た、
泥棒とゴミとヒッピー、麻薬、黒人・同性愛問題。

開拓史の英雄・カスター将軍も、見方を変えれば侵略者・殺戮者であった。

自由・平等への栄光の戦いの歴史も、裏では偽善と傲慢の歴史であった。

まさにコペルニクス的価値観の変化であった。

アメリカはまだ良い。そこには厳しさがある。
誤りを認めれば率直に反省し、
大胆に自分を変えていける国民だ。
過去の反省を即、将来の転機に変える。

世界恐慌後のTVAのように。


・・・かつて第2次大戦において、空母を中心とする機動部隊構想を初めて創り出したのは連合艦隊・小沢中将である。
パール・ハーバーにおいてその
威力を思い知った米国は、即、戦艦中心の大艦巨砲主義を改め、たった1年で、日本に倍する大空母機動部隊を創り上げ、連合艦隊を葬り去った・・・。


しかし、偉大なるアメリカの正義の偶像はとうとう崩れてしまった。

上っ面だけアメリカの真似をしてきた日本の文化風俗は、果たして一体、どうなるのであろうか?

アメリカ文化はもとより、米国指向商品群の危機でもある。




狭義にファッション世界のトラッドを考えた時、
このままでは日本のアメリカン・トラッドは消滅してしまう。このままではだめだ!

日本のトラッド・ファッションは、単なるWASP模倣ではない、
我が国独自の
日本トラッドスタイルに完成させなければならない。

そして、それは、VANトラッド(石津トラッド・くろすトラッド)でなければならない。

私はこの70年代の末に、もう1度日本トラッド・ブームを創ってやる!

それが、VANの私の使命なのだ!




そうだ!年が明けたら、さっそく“根性のKent販促・新庄君”のところへ
相談に行こう!


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく


          
           
              
Why Shinjo ?

           



1977年11月5日に出された『店頭販売業務への社員配置に関する基本方針』。長年、VAN JACKETらしさを形作っていた組織を見直し、現場主義に徹する旨が記されています。当時、この体制を取る事が一番の急務だと考えたのでしょう。




上下とも、VAN PRESS、1977年10月号の記事。










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