続・青春VAN日記38
ケント社の巻 その5(1982年)
<青山トラ次郎・営業旅情④> |
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ゴットン、ゴットーンと背中の下で車輪が鳴る。
ゴットン、ゴットーン、ピーポー、ウツラウツラ・・・。
ガッタン、ゴトン、キキキーッ、シュー、・・・イズミーイズミー。
眠いのか眠くないのか自分でも分からないボーッとした頭に、遠い世界からのように、かすかに駅の名を呼ぶ声が聞こえてくる。
・・・ツギハ、ミナマター、ミナマター。
ゴットン、ゴットン、ウツラ、ウツラ・・・。
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西鹿児島駅から鹿児島本線・福岡行きに乗ったのは、朝9時頃だったか。(もちろん二等車である。)
車窓には、穏やかな不知火の海が見えてきた。
(これから、いつまでこんな生活が続くのだろうか?)
ガッタン、ゴットン、ウツラウツラ・・・。
ダークスーツ姿が興味を誘ったのか、となりの行商風のおばちゃんがやたらと話し掛けてくる。もちろんていねいにお答えするのだが、残念!何を言っているのか、言葉が分からない。
(東京にいれば1日百万円は売り上げる私が、こんなことをしていてよいのだろうか?・・・胸中は複雑だった。)
果てしない旅は、始まったばかりだというのに、次の目的地・熊本は、果てしなく遠く感じられた。(地図上は2cmしか離れてないのに!)
すっかり空腹を感じ出した頃、ようやく列車は熊本に到着した。
・・・あれ?駅前には何も無いじゃあないか?繁華街は?熊本城は?水前寺公園は?熊本ラーメン桂花は?
・・・180万人の県民はいったいどこにいったのだ?
・・・何も見えないではないか?
ああ、また“お爺さんのランプ”(小学国語教科書)パターンか!鉄道駅は、必ず街外れの郊外に在った。なんでこんなに不便なのだ!駅の地図で確認し、バスにて中心街センタープラザへと向かった。
本日の商談予定は“まつの”様である。熊本メンズショップ業界の老舗である。
Kent-Shopマツノ店はセンタープラザ地下街の中にあった。
「おー、遠い所をよく来たタイ。」
・・・オオ、なんとも男っぽい!さすがクマソタケルの地だ!
店長、松野二郎さんは、まるでケントスーツを着こなした加藤清正!
とにかく実に男っぽい。そして兄上の松野健蔵社長は、まるで松前重義・東海大学長のような貫禄!
これが、音に聴こえた“肥後もっこす”だろうか!
初見で圧倒されてしまった。
“1型がんこトラッド+肥後もっこす=恐るべし!”(素晴らしい!)
「そげなケントの説明ば、わしらにはいらんタイ。わかっちょるタイ。 早く契約書を出すタイ!・・・」 ・・・恐れ入りました。
しばしお話を頂くと、迫力ある熊本弁の中に、こよなくトラッドを愛するお気持と、石津会長・VAN・Kentを思うお気持が溢れていました。
開口1番、取引形態等の細かい内容を確認する前に契約をして頂いた松野様に、私は、実に九州の“男気”を感じるのでありました。
あの60年代に1枚のVANのBDシャツを着始めた昭和の元若者達は、たったそれだけの共通の同時体験で、20年後の1982年になっても、日本中のどこででも、瞬時に打ち解ける事が出来るのでした。
いったい“VAN”ブランドが人を繋げるこの不思議な力とは?・・・
「 人間は制服を着せられるのをいやがる。
そのくせ、同じブレザーを着て集まると、とたんに同じ釜の飯を食った同志みたいになって、言いたい事を喋りあう。
いい歳をして、子供だね。
いつまでもYOUNG-AT-HEART。 」 ・・・石津謙介
お店のトラッド仲間達の気持は、東京も熊本も全く同じでした。
商談を終えた私は、センタープラザビルのバス発着所の横にある小さなお堂を奉った緑の公園で一息を入れました。すると、
「♪パ-パカ・パーパカ・パー・・・?」
道路を、ラッパを吹きながら飾り立てた馬を引き連れる一団が通り過ぎて行きました。(あれは一体なんだったのだろう?)
《 参考 * ウイキペディアによると、どうもこの“パーパカ・・・”は、藤崎八旛宮秋季例大祭らしい。それは・・熊本市に鎮座する藤崎八幡宮の例祭で、祭の諸行事は9月の第3月曜日(敬老の日)をその最終日とする5日間にわたって行われる、・・ということである。 》
初めて目にした肥後の国は、人も景色も珍しいものばかりでした。
まっすぐ進めない道路。
見たことも無い健軍?の地名や古い区割りの街並み。
(それにしても歴史好きにはなんとも興味をそそる土地だ。いったい健軍などという地名はなんなのだ?古事記か風土記か戦国由来か?はたまた西南の役か旧陸軍関係か?関東人には全くわからん?こんど出張のときには、熊本城や田原坂、武蔵の洞窟・・などなどぜひ訪ねて、勉強してみたいタイ!)
お会いした熊本の皆様方は、長いお付き合いができる人達だった!会えて良かった。もっと、お話を聞かせてもらいたかった!しかし、商談予定スケジュールは詰まっており、今日中に次の予定の柳川市に行かねばならないのでした。
私は後ろ髪を引かれる思いで、列車に飛び乗るのでありました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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