青春VAN日記54
新宿三越の巻 その17(1976年1月)
松飾りも取れ、七草粥も終わると、売場には閑散期がやって来ます。
この時期は、入店客数も減り、販売社員にとってはもっとも時間の余りやすい、待ち時間の多くなる季節です。私達販売員にとっては、この待ち時間をどのように使いこなすか?これが、今後の販売力UPの“決め手”となります。
待ち時間は、商品研究の絶好のチャンスであり、次期の売上につながる重要な時間なのです。
私は、スタッフ達に次のように話をしました。
<横田店長の朝礼>
〈待ち時間を有効に使おう〉
どのお店でも、接客の空白時間には、商品のたたみ直し作業や、ディスプレイのチェック作業、など整理、整頓、清掃作業をしていると思います。
しかし、こうした作業は、事務的に行われているか、それとも、しっかりとした目的を持って行っているか、によって大きな違いがあると思います。
店長の指示でただ事務的に売場整理している販売員と、自分から商品研究の目的を持って取り組んでいる販売員とでは、日々の繰り返し作業の中で、商品知識の実力に大きな差がつきます。
極端な言い方をすると、商品を“整理するフリ”をしてデザインやサイズや色を研究する。・・あるいは“たたみ直し”を行いながら、微妙な色合いや素材感、ディティールを把握する。・・“清掃”をしながら、動きやすい売場什器のレイアウトを考える。などです。
ある意味、一つの作業を一つの目的で終わらせない事です。
まさに転んでもタダでは起きない商人の精神です。
与太郎を装う落語家も自費を使ってタダ遊んでいる訳ではないのです。
なにげない作業一つにしても、こうした積極的な姿勢を持つことが、販売員の力量UPにつながると思います。
もう一つの側面としては
〈売場の空気を止めない〉 ということです。
いくらヒマだからと言って、以前には明るく応対していた販売員が、今日買物に行ったら、店頭でポツンと無表情にただ突っ立っていた。・・・貴方はどう感じますか。
活気のない場所に魅力を感じますか?・・・これでは顧客作りは進みません。
店前の通路をいきかう人も、お店のムードを肌で感じ取っています。
貴方はお客様の一人もいない、暗いムードのお店に入りたいと思いますか?
販売員の仕事は、接客に至る前のムードづくりが50%と考えてよいと思います。
あなたは、待ち時間にも生き生きとしていますか?
私が、いつもくだらない駄洒落やおやじギャグを連発しているのは、このためでもあります。活気と笑いのあるところには、人は集まってくるものなのです。あなた達も店内で芸を磨いてください。お客様や仲間に受けるネタを作ってください。
販売員はタレントなのです。そして、
〈勝って兜の緒を締めよ〉という事です。
幸いにも、今期商戦においては、売場において圧倒的勝利を収める事が出来ましたが、3月から始まる来期においては、他メーカー達も黙ってはおりません。さらなる新商品、さらなる新体制をもって攻勢に出てくることが確実に予想されます。
ここで改めて山本五十六連合艦隊長官の真珠湾攻撃終了の言葉を皆に送ります。
「真の戦いはこれからである。奇襲の一戦に心奢るようでは真の強兵ではない。勝って兜の緒を締めよとはまさにこの時である。諸子は凱旋したのではない。次の戦に備えるため一時帰投したのである。一層の戒心を望む」
・・・キマッタ!ああ、気持ちよかった!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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