青春VAN日記87
本社営業の巻 その30(1977年春)
<体制変る@> The Shadow of Your smile
数え切れない程の会社が、それぞれの思惑を持ち、この日本に存在している。
でもそれらの一部は、残念ながら私利私欲(自社利自社欲)だけのために集まったグループと言えるものかも知れない。
それらには主義もなければ理想もない、
一面、金の亡者とも思えるほどに。
現在は省利省欲や党利党欲、また、それこそ私利私欲に奔走する
“センセイ”方や官僚と呼ばれている輩の如何に多い事か・・・・・。
否、顕在化しなかっただけで、結構昔からわが国にはこの様な風潮が・・・・有ったのでしょう。
・・・・・しかし、本物の一流と呼ばれる企業は違う。・・・・・
人に、企業に、目的があり、主義があり、夢があり、歴史がある。
ヴァンヂャケットにはそれがある。
社員はその目的のために汗を流し、会社はその夢のために浮沈していた。
企業とは、利潤追求の迷想から出来上がった一種の“虚構”(フィクション)とも言える。その利潤の背後には常にうごめく“影”が付きまとう。
それは、総合商社である。商社は常に影(シャドウ)であり、実体が見えない。
そして消費者の見えない裏世界で企業の利益を吸い尽くしてゆく。
《 所謂・・電話一本で3割云々・・という例の話もその一例です。》
商社には企業の夢や主義、におい・らしさなどは問題ではない。
その利益だけが目的である。
製造業の作り出す利益をめぐってフィクションとシャドウが駆け引きを続けているのが、業界の現実であり、“虚構と影”の争いだけに企業の運命をどう転ばせてしまうのかわからない。
・・・我社の実権は完全にシャドウによって握られてしまったようだ。
1977年3月。
現場で必死の業務を続けている私たち全社員の手元に、会社からの文書が届いた。
石津社長からの「全社員への伝達文書」であった。
「第23期の初頭に際して」と題された文書は、・・・今まで23年に渡って石津社長の傘下に集ったすべての社員に対しての“意味を含んだ文書”だった。
これは、読む社員の会社での立場や社長との関わり方によっては、さまざまな受け取り方を感じるものであった。
表面上は、経営危機回避のための社員達に対する、反省・注意・激励の文章なのだが、・・・・・。
いつもの豪快な社長とは異なる文体・書き方に、私などは何か違和感を覚え、その背後に“影”を感じざるを得ないものだった。
「会社の中枢で、何かが起こっている!」・・・。
・・・・・・・4年前の事・・・・・・・
販売員時代の私は、定休日には青山本社に遊びに行っていた。
青山3丁目の角にそびえる本館の3階では、なにやら異様な雰囲気が・、
「皆さん、用意はいいですね、では、いち・に・の・さん!」
人事課名物、三間課長代理の“ニコニコ顔面体操”である。
これは顔の筋肉運動により、表情を和やかにする体操である。
1・2の3で、とんでもない笑顔を作っている課員の中には、
“VAN SITE”管理人の姿もあった・・・。
「ところで三間さん、なぜ私みたいな不勉強者が入社出来たのでしょうか?」私は入社以来の疑問をお聞きしてみたのだった。
三間さん曰く
「ヴァン・ヂャケットが求めているのは、1にも2にも“個性的な人間”です。いろんな人間がいて、始めて何かが生まれてくるもの。
様々な個性を、石垣を作るようにうまく調整してゆくのが、組織の力であり腕なのです。
個性がぶつかり合う事によって生まれるエネルギーが、会社を発展させていくと言っても過言ではありません。
どうですか・・・これで納得してくれますか。」
そうだったのか!だから『99ホール』や『VAN STATE牧場』などなども、社員達のアイデアによって生み出されてきたのか!
自由な社風の中での個性派集団、これが“VANらしさ”の源だったのか!
そしてこれらの強烈な個性の社員達は、敬愛する石津社長だからこそ、まとまりあい、力を発揮してきたのだ!
・・・その社長が改めて、今度の「全社員への伝達文書」・・・とは?
・・・本当に社長の直筆なのだろうか?
・・・なにかいやな予感がする。
万が一、我社の指導体制に変化など起こったら、私達・強烈個性派集団の社員達は、統制がとれなくなるぞ!?
・・・“におい”や“らしさ”が価値基準であり“個性が命”のVAN社を、“利潤追求・効率いのち” の“シャドウ”が動かすようになったら、
VAN商品とVAN社員はいったいどうなってしまうのだ?
VANではなくなってしまうではないか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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