続・青春VAN日記28
ヴァンカンパニーの巻 その12(1981年秋)
<青山Kent‐Shopの風景>
秋晴れの青山3丁目交差点。その周辺の景色は、VAN在りし頃とはだいぶ様変わりしてしまった。
新たにベルコモンズ、プラザ246、ブルックスブラザースの出店。
マクドナルド、ハーゲンダッツ、神宮飯店、京風ラーメン、とんかつ井泉等々が新登場し、ピーコック、東急ストア、第一勧銀、が見違えるような改装開店。
そして、かつての、野里、ユア−ズ、かついち、増田屋、漫画喫茶モリタ、高野学生服、三和不動産、青山サイクル、銀の鈴、菱屋洋菓子店、喫茶レオン、仁保耳鼻科医院、等が、VANとともに消えていった。
その中で、テイメン・アゼリア・Kent‐Shop・かめい東京・オリーブの一画だけは、まだ70年代のままだった。
そんな秋のある日、私はKent-Shop前の歩道に、おしゃれな黒いベンチを設置した。ベルコモンズによって日差しを遮るビル陰が出来たおかげで、ビルの木陰の小さな休憩所が出来た。
すると、ある時は買物途中の団地のお年寄りが、ある時は待ち合わせデートのカップルが、ある時はトラッド客の若者達のグループが、街の1シーンを作ってくれた。
店内からウィンドウを通して見る秋の青山の風情は、まるでノーマン・ロックウェルの小作品か、オーヘンリーの短編小説のようだった。
青山通りを、秋の神宮早慶戦、学生達の行列が続いている。もうそんな季節か。
また今年も絵画館前の銀杏並木が黄金に色づく季節がやって来る。
VAN社員達の思い出のいちょう並木。
そういえば、あの頃には、並木道でのデートを楽しむ若者たちが、青山通りのお洒落な “喫茶店ドルメン”で、よく待ち合わせしていたものだった・・・。
午後のひと時、SHOP内のBGM放送からは、ハイファイセットの“フィーリング”“あの日に帰りたい”が流れてきた。
秋の青山通りの風景は、何故か人心を物思いに誘う・・・。
・・・横を見ると、店の看板嬢・持丸恵子氏の目に涙が浮かんでいた。
・・・かつての恋多きVAN女子社員の数少ない生き残りである。
どうやらVAN在りし頃の社員時代を想い出してしまったらしい・・・。
さて青山三丁目に夕日が落ちる頃、Kent‐Shopには、仕事を終えた常連のお客様達が続々とご来店する。
太田さん、木村元さん、稲垣さん、鈴木さん、北野さん・・・達。
接客も一段落し、8時の閉店時間が近づくころ、東京で修行中の鹿児島天文館時報堂の若大将、吉永さんがやって来た。手にはワインのボトルを下げていた。
「横田さん、秋の夜長、一杯いかがですか?」
「いいですねぇ」
さっそく、隣の“アゼリア”からつまみをいただいて、わが店のカウンターは、小さなパブに変身するのだった。
照明を落とし、シャッターを半分降ろした店の奥では、オープンリールデッキからスタンゲッツのコルコヴァードが流れ、トラッド仲間達の語らいの中、秋の夜長は更けていくのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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