続・青春VAN日記121
ケント社の巻 その88(1986年)
<採用試験の面接試験官を経験>
幸か不幸か、私は、学生時代から一貫して販売に関わる仕事に携わって来た。 デパートの特売場から青山の専門店に至るまでの15年間の接客経験の中で、一般の会社員の方々よりもより多くの異なった社会に生きるお客様方と触れ会う事が出来た。
販売技術の第一歩とは、どれだけ早くお客様の“人となり”を読み、適切な“間合い”と“見切り”の判断が出来るか、である。
(※剣道の試合も面接試験も商談も、皆同じ“人を読む事”である。)
かつてのデパート・ケント店長時代には、お客様方から「横田店長の人相見は、“新宿の母の手相見”より当たる」なんてお世辞を言われて、いい気になっていたものだった。
サービス業での成功とは、どれだけ多数のお客様方に気に入られて、御愛顧を頂く事ができるかである。
「汝の敵をよく知れば百戦危うからず」なのである。
かくしてそれなりに接客技術を研究したつもりの私は、自分の販売法と売上に自信を持つように成るのだが、・・・それは思い上がりだった。
私達社員の言動は、見えないVANのロゴに守られていたのだった。
店頭接客時も、アルバイトの面接する時も、クレーム処理の時も、新規取引先との難しい商談の時にも・・・、
いかなる時も、石津会長の“見えない力”に守られていたのだ。
御愛顧を頂けたのは、石津会長・諸先輩方・販促の作り上げた“VAN”の“オーラ”や“バリヤー”のおかげだったのである。
それこそが、TORADITION ・・“伝統の持つ力”であった。
現在の新VANの再興にしても、全てが旧VANの創り上げて来た“伝統の世界遺産”のおかげだったのである。
現在、正統VANを名乗る以上は、掛け替えの無い“伝統の力”は当社の最も大切な“命であり宝である”。
私達は絶対に“遺産を食いつぶす馬鹿息子になってはならない” “宝に依存する”のでは無く“宝を維持・継続・発展”させていく事が使命である。
そして、ケント社においての新人教育は、私の仕事であった。
よって、社員採用試験の面接官もやらされることになった。
・・私は、ビジネスに関しての専門家では無いし成功者でも無い。
単なる一トラッド愛好者に過ぎない。しかしトラッド企業作りには夢をもっていた。
・・・“サラリーマンが経験するビジネス世界での苦労とは”。
一般企業においては、本来の得意先との対外業務の問題よりも、社内の人間関係に苦悩することが多い。日本人の悲しい性とは、“外部よりも内部に敵を作る”習性である。
(※政治家の権力争い、学校のいじめ、家庭内暴力、ママ友の付き合いetc。)
そこでは3人寄れば足の引っ張り合いが始まるのが常である。
(※夫婦喧嘩、兄弟喧嘩、遺産相続争い、合コンの女子etc。)
全ての“悪”の原因は、人間の“利己主義”と“欲望”であり、“自分の幸福度”を身近な周囲と比べて一喜一憂してしまう・・島国根性“コンフォーミティ”の成せる技なのでもある。
営利目的である企業では、社員数が大規模になればなるほど、考えの異なる人間が増加して内部での欲望の争いも発生する。
(※企業とは“社会の幸福”を標榜しながらも、人間同士の欲望を刺激させ
そこに自己の最大利益を求める組織である。・・・嗚呼“矛盾”。)
そこには「業務に疎い人間」や「忠誠心の薄い社員」だけでは無く、政治・宗教・思想の価値観の違いも表面化する。
企業意識の統一出来ない組織には、次第に不満を持つ人間が増加し、やがては不満分子が集まり組合が結成され、労働生産性は下落する。
そして企業は内部から崩壊の種を作って行く・・・。
(※繁栄が滅亡の原因を作って行く・・・。絶対矛盾的自己同一?)
そんな一般的な“企業のライフ・サイクル”にはなりたくない。
・・・だから、私は、
「趣味嗜好性や理念を大切にする企業には大組織は望ましくない。」
「価値観の共有出来るレベルの揃った少数精鋭組織が望ましい・・。」・・・と、考えていたのであります。
(※かつて戦後日本のプレステージ人間の集団であった旧V社とは、「鬱勃たるパトスとロゴスに満ちた青春のゲマインシャフト」だった。
石津社長の下に価値観を共有する若者が集合し、気心の通じ合う職場は、本当に仕事が楽しかった! 私はそんなケント社にしたかった・・・。)
さあ!短時間の面接でどれだけ人の本質を見られるものだろうか?
どうやったら価値観を共有出来る好青年を見付けられるだろうか?
・・私とて、ダテに毎日何十人もの人を接客していた訳では無い。
ここが鍛えた腕の見せ所である。
石津会長の“読みの神業”にはとうてい及ばないが、私も、人の言葉使いや身のこなし、着ている服の傾向・着こなし・コーディネイト等を研究して、人を読む練習をした。
それが出来なければ、売上は作れない。
はたして短時間の面接で、会社の未来を担う人材を見付けられるか?
あの佐野・包国・金沢・檜森・横山・藤井・野村・山本さん達の様な、 “青春の達人”を、見つけられるだろうか?
私のトラッド面接の基本質問とは、次の様なものでした。
“洋服が好きかどうか”
“伝統を大切にするトラッド思想が理解出来るかどうか”
“他人を喜ばせる事が、自分の喜びに感じられる人かどうか”
“自分の体と心を、自分の意思で制御調節できる人間かどうか”
“何よりも、明るく元気で正しい心を持っているか、等である”
(※かつての旧V社の末期、最後まで業務を果して頼りになった社員とは、損得勘定を捨てた“好きこそ物の上手なれ”の社員達でありました。)
閑話休題
不思議な事ですが、かつて私を助けてくれたり親切にしてくれた人は、みな出世したり幸福な人生を送っている様です。
私の悪口を言ったり、いじわるや悪行をした者はみじめな人生を送り、悲惨な末後を辿っているらしい。
・・・自分でも理由は分からないのだが、これらは、お天道様は何時でも見ている。という事だろうか?それとも、大自然の“自然淘汰”の法則なのだろうか?
私はつくづく思う。“人は謙虚に生きる事が大切だ”。
自分だけの一攫千金を夢見る利己的な人生は、必ず他人に迷惑をかけ、その反動は、いつしか我が身に返って来る。だからこそ、入社時の「営業か販促をやりたかったのに、なんだよ販売かよ!」等の私の思い上がった考えは、その後の店頭で、徹底的に叩き直される事になったのです。
“あれから30年!”(綾小路きみまろ氏のパクリです。)
現代の若者達の中にも、社会人として未熟な言葉使い・身なり態度や常識・マナー・コンプライアンスの無い人をよく見かけます。
今や“躾け”を教えてくれる“雷親父”や“熱血教師のげんこつ”、
“石津先生の指導・くろす街アイ・VAN”も存在しません。
よって老婆心ながら、実社会を迎える人達のためにも、30年前の、採用する側の大人社会の“企業の常識”や“心得”を私なりに、思いつくままに羅列してみます。
・まずは人間社会の“決まり事”や“T・P・O”を知りなさい。
(※自分の置かれた立場・情況を自覚しなさい。
会社員とは、会社に拘束される一兵卒・一部品になる事なのです。
ON DUTYの場とは個人の自由を主張する場所では無いのです。)
・職場とは、勉学や遊興の場所では無く、戦いの場所である。
(※ダークスーツとはビジネスマンの戦闘服である。お洒落着ではない。)
・重要なのは“理屈”では無く、勝ち抜くための“能力”だ。
(※中身の無い人間ほど、仕事の弁解や言い訳・屁理屈が多くなり、その身をモノや金で飾りたて、仕事以外で目立ちたがるものだ。)
・戦場では、生への意欲や情熱無き者は自ら滅びる。
・仕事の能力と理念の無い者は、給与泥棒と呼ばれる。
・仕事の出来る人間ほど、仕事の選り好みはしない。
・俺が俺が、私が私が、の自己中心人間は職場不和の元凶となる。
・敬語・謙譲語の出来無い“ためぐち人間”はサービス業にはいらない。
・常識・礼儀・マナー・コンプライアンスの無き者は来るな。
・他人の悪口を言う者、グチを言う者は自分の評価を下げるだけ。
・団体行動と自己管理が出来ない者は、社会人不適合である。
・明日やります、は駄目。やるのは今でしょ。
・・・・等々。ああ、キリがない・・・。
追伸
もし、面接試験で必勝を勝ち取りたい方がいましたら、まずは、トラッドスーツを着てみてください。
御存じの様に、現世界の政治・経済・文化の先導者はWASPです。
そのスタイルは、世界の“教養・知識・良識・力”の代名詞なのです。
そして、一流の面接官とは・・・、
・・・世界を知り、トラッドを知る、“おじ様方”なのです。
貴方も“伝統の力”の“オーラやバリヤー”を知って下さい。
流行のブランドやディスカウント・スーツに、その力は有りません。
そして、面接試験における姿勢や態度や言動では・・・、当、青春VAN日記76号登場の佐野雅男君を参考にして下さい。
どこの会社の面接でも、合格がぐっと近づいてきます。
(※就職難の現代でも・・、私の愚息でも・・、一発で合格しました。)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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