続・青春VAN日記137
ケント社の巻 その103(1989年春)
<昭和時代終わる>
1988年、VANグループ各社の1年は平穏無事に暮れていった。
開けて1989年。・・・時代は大きく変わって行った。
昭和64年、新年を迎えると同時に昭和天皇が崩御され、今上天皇が即位されて、時代は“昭和”から“平成”へと改元された。
そして、未知の新時代に入ったケント社内では、変化する時代に対応すべく、連日の会議が続いていた・・。
<平成元年・企画方針会議>
・・かつては、終戦後の混乱する日本の若者達に世界に通用する正しい服飾文化と商品をお届けすることが、VANの使命であった。
そして、あれから30年。若者達がファッションリーダーであった高度成長の時代は、既に過ぎ去った感がある。
かつての貧困国・日本が世界2位の経済大国・成熟社会となった今、“珍しい事、新しい事、高級な事”だけを追求して、流行の先端を突っ走ってきた昭和の元若者達も、実社会での人生経験をこなし、ようやく世界的レベルのおしゃれが解かりかけてきた段階になったとも言える。
まさにトラッドとは、時間の経過のみが創り得る世界である。
そして、日本は世界中のあらゆる商品が手に入る恵まれた社会となり、・・・市場は新たなる飽食のカオス時代となった。
・・・今、「スノッブ」と言う言葉が流行っている・・。
ある有名な女性月刊誌の新聞広告に、こんな文句がかいてあった。
「よりエレガントに、よりスノッブに」という見出しである。
今春のトレンディな装い方のことらしい。
果して、当世流行のエディター・スタイリスト・ライター達とは、言葉の意味が解かって使っているのだろうか?
・・・念のために英和辞典を引いて見た。
「紳士気取りの俗物。ニセ紳士。上にへつらい下に威張るキザな人物。地位財産に追従する身分の卑しい者・・・。」
こんなハナ持ちならぬ連中のことを「スノボクラシ―」と呼ぶそうだ。
けっして真摯に生きる男性を称賛する意味の言葉では無い。
わが国ではいつ「スノッブ」の意味が変化したのだろうか?
装身具をキンキラさせて虚構の外見に見栄を張る人間達。
・“不良っぽい男って素敵だわ、悪の香りがカッコいいわ”
・“私、電車なんか乗らないわ、彼に外車で迎えに来てもらうの”
・“アッシ-君やミツグ君、ってとても便利なのよネ~”
・“平凡な人生を生きている男なんてつまらないわ”
・“ちょい悪おやじって魅力的ョね”・・・・か! |
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ようやく手にした平和と飽食の時代に驕り溺れる人間達。
次に求める物とは、危険な負の香りや刺激やスリルなのだろうか?
そしてスリルと冒険と危険を味わった後日の女性達の決めセリフは、
「こんなハズじゃなかったわ。やっぱり普通で真面目な男がいいわ。」
嗚呼、人間は何故、正しい歴史認識を学ばないのだろうか。
(女心と秋の空、女心と冬の風、女心と告げ口外交、女心とナッツ姫・・。)
そして“因果応報・盛者必衰・諸行無常”の歴史は繰り返す・・。
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最近の女性誌では、男がいつも同じモチーフのネクタイを締めている事を、「なんとかの一つ覚え」とばかりに“ダサイ”とケナスが、・・橋本首相を見よ、海部首相を見よ。
あれだけの格上の男がいつも同じモチーフのストライプや水玉のネクタイを堂々と締めている。頑固が良いという意味ではない。
その信念が男らしいのだ。男は自分自身の家紋を持ち、誇りを持って人前に堂々と主張するのである。
男の装いとは、自分の信念を押し通す事でもある。
それを、自分の亭主でもない国家の首相に対し、色がどうの、柄がどうの、デザインがどうのと批判して、女性誌は何様か。
紳士服は、遊びの場で着る華美な流行ファッションでは無い。
男の服は、ステイタス・紋付・戦闘服・身上書なのである。
見るたびに違った色、変わった柄のネクタイを締めている事こそ、舶来物だか何か知らないが、格上の男のやる事ではないだろう。
男の装いとは、我身を飾り立てて自分をウソ偽る事では無く、己の生き様“身上・心情・信条・新庄”を他者に表明するものだ。
※かつて1975年度秋冬期Kentキャッチコピーは、(Kent販促・新庄参謀長)
過激にも「女性にスーツを選ばせる男はトップには成れない」であった・・。
そしてかくの如き“平成”の混沌の時代に、当社は、何でも売れればいい、儲かればいいであってはならない。世界に恥じない日本の正統紳士服文化を伝えなければならない。
これ以上間違った紳士服の概念を日本に蔓延させてはならない。
正統(TRAD)の道を貫く事こそが、Kentの役割と使命である・・・。
・・・そして決まった当社のPermanent テーマは・・・、「KENT ism」!
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KENT ism カタログ表1 |
20数年ぶりの「THE EXCLUSIVE MAN」の復活であった。
(※KENT ismの主張は、イメージ先行の市場用キャンペーンではなく、商品そのものに帰って原点を見つめ直す社内内部向けのものだった。そこにKentの強い信念と主張を込め、いずれはこのメッセージをマニアに限らず広く一般にも訴求しようとも考えていた。)
平成のケント社が目指すものとは・・、紳士服の本道トラディショナルである。
“ UNCHANGEABLE GOODNESS” 「商品が自らを語る」
「本当にいいものは変わらない。そして永遠の個性を持ち続ける!」
目的は売上No1企業では無く“ONLY ONE企業”である。
業界初の“100年ブランド”である。
さらに続いて、<1990年代のKent方針>を策定した。
SPIRIT
“The exclusive man”
伝統に裏付けられた本物志向。
しかも国際的に通用し、時代と共に進化して行く究極のベーシック&ハイスタンダード志向。
BRAND POLICY
スタイル、素材、縫製など、全ての面に高品質主義を貫き、厳選された製品を、服を知り正統を求める男達に提供する。
TARGET
服にさりげないこだわりと主張を持つベーシック志向のビジネスマン。
国際的に活躍する「格(クラス)」を求めるエグゼクティブな男に。
SENSATION
「日本のトラディショナル・クロージングの草分け・Kent」
日本のビジネスマンの正統派服装術はKentからスタートした。
ADVERTISING
○ 雑誌「MENS CLUB」での定期的な商品取材の掲載。
石津会長のMC誌“男達への「TRAD新宣言」”連載開始。
モデル北上純氏をキャラクターとし編集タイアップのシーズン掲載。
○ 雑誌「エスクァイア」に斉藤融氏のイラストでのシリーズ広告連載。
○ 店頭においては、Kentの最も得意とするアイテムであるブレザーを軸とした
「CLASSIC BLUE」キャンペーンの展開。
(※例によって、これらケント社企画方針の作成御協力は、
イデアコナ・池田プランニング・Cカンパニー、MC誌・守屋孝一氏
そして開祖・石津会長・くろす先輩・・・の皆様方でありました。)
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さあ!更なる前進を目指すぞ!・・と取扱店舗180、年商30億円、社員数50名を超えて、意気上がる平成元年のケント社でありました。
そして販促担当の私は、・当社社員の立つ店頭の全てにFAXを設置し、
「Kent・ SALES INFORMATION」の執筆・発信を開始し、・又、Kent shopの定義を確立すべくKent販売Knowhowの全てを網羅するマニュアル・・、「Kent販売憲法」(仮題)の作成に取り掛かるのでありました。
以下は、1988年 S & S Kent Collection カタログの一部です。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
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