続・青春VAN日記138
ケント社の巻 その104(1989年春)
<ケント社・平成社員旅行の巻>
さて、2月総決算も好調の内に済んだケント社内においては、恒例の社員旅行が決行された。これも社内盛り上げ部長である私の仕事の一つであったのかもしれない。
かつてはV社員旅行と言えば・・、旧V社時代はオジサン社員達の要望で、温泉地などに出かけては、芸者を呼んでの宴会から果てはお座敷ストリップまであるという、とんでもないものもあったらしいのだが・・・、
今や男女の若手社員も増えた・・格上のアパレル企業を目指す“業界の紳士たれ”“The exclusive man”・・のケント社が、そんな公序良俗に反する慰安旅行などをする訳にはいかない。
品格の無い社員旅行などに会社が出費する訳にはいかない。
社員旅行とは、修学旅行と同様に知識と教養を高めるものでなければならない・・。(※昭和の文部省教育の成果であります。)
昨年度は、Vカンパニー社員の嘉味田和彦君(実家・ホテルサン沖縄)の協力をいただいて、豪華・沖縄旅行で好評を得たものであったが、さて、今年はどこにしようか?・・・と、社内での要望を聞くと、味をしめた社員達の希望は、世界一周から熱海旅行とピンキリで、会社のフトコロ状態も考えない要望のテンデンバラバラ状態。
(※しかしながら人間の興味や好みは、世代の格差でずいぶんと違うものである。私の推奨“沖縄南部戦跡コース”に賛同する者は誰もいなかった。若者社員達は皆ムーンビーチやディスコに行ってしまった・・・涙。)
そこで今年度は、すでに好調な決算を予測していた・・・、東京外語大ウラルアルタイ語系列卒業・清徳専務に相談したところ、
「若手社員達に英語圏文化や海外旅行のマナーを学ばせられる所がいいだろう!
・・今回は多少の経費出費もOKカムサムニダ。」・・・との事だった。
さらには、“南の島愛好家”石津会長にも御話を伺った・・。
「 近頃は、ハワイが混むせいか、グアムへ行く人が増えたらしい。
いろいろな施設が増えて海で遊ぶスポーツも面白くなったらしい。
・・日本のオークラ等の一流のホテルも頑張っているから、ワイキキのへたなホテルよりもサービスはこちらのほうが良いかも知れないゾ。
ところで、グアムから帰って来た人達の話の中で気にかかるのはお土産のことだ。
この島には名産品がないから、結局お土産はありきたりのウイスキーに煙草くらいのものしか無い。
だがあんな酒なら日本製のサントリーの方が美味いし、煙草はどうも人前で吸うのも恥ずかしい時代になってきて、お土産に買ってきても誰も喜んでくれなくなってきた。
今や成田の税関をお酒と煙草をしこたまブラ下げて出て来る人は、よほど海外旅行経験の少ない人か、または初心者というのが通り相場だ。
ボクが経験したグアムのちょっと面白い土産を教えてあげよう。
・・土産物屋にはたいして面白い物が無いし、特に美味い店もこれといって無いから、駆けずりまわっても無駄な話。
食事はホテルの和食料理店や最近出来ているラーメン店で充分だ。
面白いのは地元のスーパーや大型店だ。
生活者用の、大工道具や日用品を売っている店、金物店、家具店、こんな店を丹念に見て回ると、日本では見た事も無い、電燈のスイッチだの泥棒よけの錠前だの、ジョークの利いたナプキンだのエロティックな漫画のついたトイレの蓋カバーだのマットだの、一日中楽しめる店がある。
また街の中やビーチにある屋台のボロ市やフリーマーケットに出かけると珍しいものだらけ。妙な野菜や見た事無い果物もある。
それにここの魚類は小魚が多いから、キッチン付きのホテルなら、自分達の手料理でおもしろいパーティもできるぞ。
そして若者向けには、ディスコや観光用実弾射撃場もあるらしい。
・・・そんな事で、・・・グアムなんか良いんじゃないか?
でも、ボクはもう社員旅行は遠慮するよ・・・。
そうだ!ヨコタ君、歴史好きの君なら興味深い場所も有るゾ。
かつての太平洋戦争時、グアムは旧日本軍が占領していた。
海軍陸戦隊と陸軍南海支隊の計5千名が上陸して、当時は大宮島と呼ばれていた。その頃の陣地や砲台跡も残っている。
島南部には横井庄一軍曹が潜伏し発見されたタロフォフォ川上流のジャングルや滝の大自然もある。スペイン統治時代の遺跡や景色の良いココス島もあってシュノーケルも楽しめる・・・。」 |
|
・・・さすが、“南の島愛好家”会長の御助言であった。
(※私は特に、旧日本兵横井庄一さんの話に興味をそそられてしまった。)
かくして、ケント社員旅行は“グアム島”に決定した。
成田空港に集合したケント社員達。
清徳宣雄、横田哲男、山内昭一、渡邊敏和、横山勉、並河東平、飯田鎮雄、大宮栄一、高橋弘、木村昌信、
(石津会長、牧尾社長、宮川常務は危機管理を考慮して不参加。)
そして若手社員達。
鈴木栄冶、青木忠、浅見芳一、茂木文幸、矢作孝、朝比奈利充、平良秀樹、山原治、折笠裕幸、池田禎、佐々木透、大久保高志、門屋哲司、佐藤卓、高山賢、丸山馨、根津文彦、早川栄一、安藤生康、岡田亨、加藤淳也、花田哲幸、橋立裕、中嶋誠、打木和則・・・、
田中裕子、関まゆみ、奥山利恵、永田裕子、菅原由起子、原田順子、横地美香、森泉静代、上田明美、渡辺浩子、石津淑美、岩崎美智代、岩崎忍、後藤美香、神塚ともえ・・・の諸君達。(※名前を間違えた人がいたら、御免なさい。)
|
しかし、何歳になっても集団の旅行とは楽しいものではある。
子供の頃の遠足や修学旅行ではないが、食べて飲んで歌って大騒ぎして・・
(※だが、引率の先生はなかなか大変なのである。)
「・・皆さん、旅先に居る時だけでは無く、家を出発した時からただいまと家に着いてドアを開けるまでの全部が旅行中です。くれぐれも当社員としての自覚を忘れないで、危険は避けて大人の責任ある行動を願いますヨ・・。」
空港での社員達はまるで高校生修学旅行状態であった!
なんと!グアム空港の通関では・・・、派手な格好で騒がしい当軍団は、すっかり目を付けられてしまい、あろうことか、浅見芳一くんが別室に連れて行かれてしまった。
・・どうやら彼のアイビーカット・ヘアスタイルのブロースが・・、有名な日本の“角刈りのヤ―様”と間違われたらしい。荷物を調べられた一行は実に通関に手間取るのであった。
一行の宿泊はフジタ・タモンビーチホテルであった。
この、ビーチを目前にする日系ホテルには日本人従業員もいて、言葉の苦労は全く無かった。一階には和食料亭やラーメン店があり、またビーチにはパーラー・レストラン・海の家・売店もあり近所には日本レンタカーまで在った。
まるで熱海か湘南であった。実に便利だが海外勉強には果して・・?
さて、当社員旅行は全員現地自由行動である。
見どころ・遊び所・注意点は、事前に説明しておき、各人テンデンバラバラに遊んでもらう。束縛はしない。
しかし皆が行った先は、・・恋人岬・タモンビーチ・実弾射撃場・免税店・ショッピングセンター・ディスコ・クラブ等だった。
(※多聞(タモン)そこは日本人客ばかりだろ―に、ミーハーだね。)
そして、私はと言えば・・・、私が旅行の事前に計画し、皆に声を掛けて誘っていたのだが・・、島南部一周ドライブの旅・・・、
「スペイン統治時代遺構と横井庄一軍曹ジャングル戦跡探検コース」に出発するのだった。
・・・参加希望する若者は誰もいなかった。(当然?トホホ!)
しかしながら、レンタカーを借りての(※事前に講習を受けました。)左ハンドル右側走行に苦労しながらの一人ドライブは実に楽しかった。
・グアムの巨石遺跡群・スペイン統治時代の古建造物の数々。
・ココス島の白砂のエメラルド・ビーチと金髪ビキニの絶景。
・タロフォフォ川上流の滝で地元の子供達と水遊び。
・ジャングルの中を横井軍曹になったつもりで軽く探検。
・そして村のマーケットで面白い商品見物とお買い物。
|
嗚呼!若手社員の皆が、大人に成るのは何時の事やら!
(・・まてよ、私が一番おとなげない変わり者だったのかもしれない?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく
|